不都合な真実90点

結論から言う。
もしあなたが環境活動家または環境問題の専門家でないなら、DVDになってからで良いので、この映画は一度観ておくべきだ。


ハッキリ言う。
この映画を映画として観て出来を言うなら「映画館で観る必要はない」レベルだ。
また、この映画はアメリカ人向けに作られた内容であり、最後の方は恥ずかしいほどにアメリカ礼賛精神に基づいたメッセージが展開されるので、アンチアメリカ派ならばそれだけで反感を覚えるかも知れない。
それでも私が90点を付けるのは、一人でも多くの人に、冷笑や斜に構えた態度を一旦捨てて、この映画を観て欲しいからだ。


地球温暖化問題が、事実に基づいた情報と、とてもわかりやすい説明と、真面目で前向きなメッセージによって語られる。
自分自身の知識と意識を、各自、この映画を観て今一度チェックして欲しいと思う。
その上で「なんだよ。自分はもっと先へ行ってるよ。この映画は遅れている人のための啓蒙フィルムだな」と思うなら、それで良い。
そう思えないならば、きっと何らかの得るものがあるはずだ。


例えば…1996年に和解が成立した薬害エイズ問題、例えば今なお続く北朝鮮拉致問題…はっきり言って、こういった問題に私ができることは(もちろんあるけれど)多くないのが事実だ。
が。
環境問題は違う。
活動家達が最初から言っている通り、最終的に人間一人一人が…すなわち私がやるべきことをやらなければ解決しない。
少なくとも、待っていれば誰かが解決してくれる類の問題でないことだけは確かだ。


だから、アル・ゴア元米副大統領のプレゼンテーションを観て、これを映画にした製作者達の考えに賛同する。
とりあえず一人でも多くの人に観て欲しい。批判するのはその後でいい。


私自身は「環境問題に以前から関心を持っている一般人」。
スーパーにマイバッグを持っていってポリ袋は断る。エアコンをつけるよりは一枚着たり脱いだりして調節する。
環境問題に関する本は3冊くらいなら持っているけど、それ以上に詳しいわけではない。
そんな立場である。


そこから正直に白状するなら、私自身はこの環境という問題について悲観的に思っている。
…理性至上主義であり、人間の持つ底力を信じて疑わない楽観主義の私が、この問題だけは楽観できない。
人間一人一人は…すなわち私は…愚かだ。だから、たぶんこの問題を解決するのには間に合わないだろう…と思っているのだ。
だって未だに私は宇宙へ行けず、人々の信念の元に血が流され、隣人同士は妬み・憎みあっている。
だから、この映画が…というより、大統領候補になるだけの事はある人物アル・ゴア氏が信念を持って語る前向きなメッセージに、本気では同調できない。


だが、映画の中でアル・ゴアが語っている通り「否定から絶望へとジャンプしてしまう前に、すべきこと、できることは沢山ある」。
それをやらずに言い訳だけしつつ先に逝くのは卑怯だと…それだけは同意できた。


映画としての評を書く。
環境問題に関心があるからかも知れないと前置きした上で、私にとっては内容が面白くて最後まで目を離せなかった。
殆どアル・ゴア氏一人の講演会や、ナレーションだけで構成されているのだが、どっかの国の政治家と違って、アル・ゴア氏の講演(演説)には思わず耳を傾けたくなる面白さがある。プレゼンテータとして優秀なのだ。


構想××年といった作品と違って荒削りではあるが、退屈させないようにカット割りに工夫しているのは感じられる。
衝撃を大きくしたいという意図から、今どれほど恐ろしい状態であるかの説明に大半が費やされているので、既に問題の大きさを把握している知識人にとっては冗長に感じられるところがあるだろう。
エンドロールと共に表示される「今我々にできることリスト」は、アル・ゴア氏の強いメッセージで語って貰った方が、締まったと思う。
少しでも多くの全世界の人々…例えば中国などで観て貰うことを想定して…映画にする際には、アル・ゴア氏が語るアメリカ人向けメッセージの部分は、もっと普遍的なメッセージに書き直せば良かったのにと思う。…そしたらアメリカでヒットしなかったかも知れないが。


これは映画製作者の功労というよりは、恐らくアル・ゴア氏のキャラなのだろうが、恐ろしい問題を「恐ろしい!認識しろ!」で終わらせず「解決できると信じている」というメッセージで締めくくったのは良かった。
でなければ、それこそ「否定から絶望へジャンプする」手助けになってしまうし、マゾでない限り、誰も金を払ってまでそんな映画を観たくはないからだ。